精密なムーブメントを搭載する機械式時計。その動力源であるゼンマイをリューズで巻き上げる際、手巻き式と自動巻き式とで「正しい作法」が大きく異なる事実をご存じでしょうか。
良かれと思って間違った操作を続けてしまうと、内部パーツの劣化を招き、結果的にオーバーホールなどのメンテナンス費用がかさむ原因となります。
この記事では、時計業界で20年以上のキャリアを持つ筆者が、愛機を末長くお使いいただくための「正しい巻き上げの知識」を詳しく解説します。
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目次
あなたの愛機はどちら?手巻き式と自動巻き式の簡単な見分け方

お持ちの時計の仕様が不明な場合、裏蓋がガラス張りの「シースルーバック」であれば簡単に判別できます。ムーブメントの半分を覆うような半円形の金属パーツ(ローター)が見えれば「自動巻き式」、ローターがなく歯車などの構造が全体に見えれば「手巻き式」です。
手巻き式時計の正しい巻き方

最初に、リューズを手で回して動力を得る「手巻き式時計」の基本手順をおさらいしましょう。(※詳細な解説は<手巻き式腕時計の正しい巻き方と、長持ちさせる秘訣>の記事をご参照ください)
ポイントは以下の4点です。
①ゼンマイの巻き止まり(限界)を感じ取れるよう、ゆっくりと優しく回す
②ゼンマイのほどけ具合を一定に保つため、毎日同じ時間帯に巻き上げる
③リューズから指を離さず、親指と人差し指を擦り合わせるように「往復運動」で巻く
④巻き止まりの感触があるまで、中途半端にせず最後まで巻き上げる
自動巻き式時計で知っておくべき「正しい巻き方」
ここからが本題です。内部にローターを備えた自動巻きモデルの場合、手巻き式とは全く異なるルールが存在します。手巻き式と同じ感覚で扱うと、かえって時計にダメージを与えてしまうリスクがあるため注意が必要です。
注意点1:毎日の「手動巻き上げ」は控える
手巻き式との最大の違いは、「毎日、手でリューズを巻くことは避ける」という点です。

自動巻き時計は、着用時の腕の動きで自然にゼンマイが巻き上がるよう設計されています。自動巻きのムーブメントは構造が複雑で、手動でリューズを回すと「切り替え車」と呼ばれる繊細なパーツが高速回転を起こします。これが頻繁に起こると部品の摩耗を早めてしまうため、時計が動いている状態であれば、あえて手動で巻き足す必要はありません。完全に停止している時以外は、手動での巻き上げは最小限に留めるのが賢明です。
注意点2:停止状態から巻き上げる際は「動き出すまで」
では、時計が完全に止まってしまった場合はどうすべきでしょうか。軽く振るだけでは十分な動力が得られないため、最初はリューズを使って手動で巻き上げるのが正解です。
しかし、ここでも「巻きすぎ」は禁物です。回数にして10〜20回程度、理想を言えば「秒針が動き出すまで」の巻き上げで十分と言えます。時計が目を覚ましたら、あとは腕に装着し、ローターの回転による自動巻き上げに委ねてください。
専門家の視点:リューズは「一方向」か「往復運動」か?
リューズを巻く際の指の動かし方について、「一方向に巻き続けるべきか、往復運動で巻くべきか」という疑問を持たれる方も多いでしょう。結論から申し上げると、どちらの方式でも機構上のリスクは存在しますが、筆者としては「往復巻き」を推奨しています。

手巻き式の場合、逆回転を防ぐ「コハゼ」というパーツへの負担を和らげるため、往復巻きがセオリーとされています。

一方の自動巻き式では、コハゼ以外の部品も逆回転防止をサポートする構造になっているため、手巻き式ほどコハゼへの負担が少なく、一方向のみで巻き上げても大きな問題はありません。

ただし、往復巻きにも懸念点がないわけではありません。巻き戻る動作の際、「キチ車」と「ツヅミ車」というパーツ同士が滑る(スリップする)ため、メンテナンス不足の個体では摩耗の一因となります。
このように双方に一長一短がありますが、リューズから指をパッと離す際の急激なショック(衝撃)を抑え、愛機と対話するように優しく操作できるという観点から、長年の経験上、筆者は「往復運動」での巻き上げをおすすめしています。
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